「アニマルウェルフェア」について知りたいと思ってくれて、ありがとう!
とつぜんだけど、きのうの夕ごはんは何だったかな?
おでん? とりのからあげ? ギョウザ? ハンバーグ? シチュー?
これらのメニューは、「タマゴ」や「とり肉」、「ブタ肉」、「牛肉」、「牛乳」が使われている。
では、「タマゴ」・「とり肉」・「ブタ肉」・「牛肉」・「牛乳」が、似ているところはどこだと思う?
「スーパーで買う」?そうだね。 それもあるけど、コンビニで買うこともあるよね。
「野菜じゃない」? うん、近くなってきた。でも、犬やネコとはちがうよね。
答えは、「人間が食べる(牛乳は飲む)ために、育てた動物からできている」ということ。
「ええ、そんなのが答え? 当たり前じゃん」と思うかもしれない。
じゃあ、ニワトリや、ブタや、牛がどんな場所でどんなふうに育てられているかは知ってるかな?
今回の「アニマルウェルフェア」は、「人が食べたり飲んだりするために育てられる動物」(そんな動物を「家畜」と呼ぶよ)が、ぼくらの使うお皿にやって来るまで、どう過ごしているかについての話だよ。
ちょっとビックリしたり、コワイって思ったりするかもしれないけれど、知っておいたほうがいいと思う話だから、ここでいったん深呼吸してみて。
気持ちが落ちついたら読み進めてみてね。
家畜たちの育てられ方
多くのニワトリの場合
まずはニワトリ。
日本には、人間より多くのニワトリが日本のいろんな場所で育てられている。
学校によっては、小さな小屋でニワトリを育てている人もいるかもしれないね。
でも、日本で家畜としてニワトリのほとんどは、学校のニワトリ小屋ほど広い場所じゃなくて、ニワトリの体と同じくらいの大きさのカゴに入れられて、そのカゴがずらっと何千、何万と並べられた場所で育つ。
どうしてかというと、放し飼いにするとあちこちにフンをして、掃除するのがたいへんになってしまったり、せっかくのタマゴが汚れてしまったり、他の動物に食べられたり、病気をもらったり、かぜをひいたりしてしまうから。
そして、ほとんどのニワトリはタマゴから出てきて1週間くらいでクチバシの先を焼き切ってしまう。なんだか、いたそう…? でも、クチバシの先がとがっていると、ほかのニワトリをつついてキズつけてしまうからなんだって。
あと、寝る時間を少なくするために夜も電気をつけっぱなしのところも半分くらいある。
明るい時間が多いほど、たくさんエサを食べて早く大きく育つと考えられているからなんだそうだ。ニワトリって、寝られなくてもだいじょうぶなのかな?
早く体が大きくなるように、病気にならないように工夫したエサが使われることが多いみたい。
多くのブタの場合
次に、ブタ。
こどもを生むお母さんブタは、体と同じくらいの大きさのオリの中で、ずっと同じほうを向いたまま立っているか、座るかのどちらかのことが多いんだって。
そのほうが、ブタの寝る場所が汚れにくいから。
生まれた子ブタは、なかまをキズつけないように、犬歯(とがった歯)をけずられる。ぼくたちが歯医者さんで虫歯を治してもらう時みたいな麻酔はされない。痛くないのかな?
そして、しっぽがあるとほかのブタにかじられちゃうので、しっぽは切ってしまう。
そのうえ、オスの子ブタは、タマタマまで取られちゃう。やっぱり麻酔なしで…。
そうしたほうが、お肉がくさくならないからなんだってさ。
男子には、ちょっとたまらない話かな。
多くの牛の場合
じゃあ、牛は?
さすがに牛は、広々とした牧場でのんびり過ごしているんじゃないの?と思うんだけど、そんな牛はほんの少ししかいない
多くの牛は、牛用のおうちの中で、ずっとつながれて過ごすか、体と同じくらいの広さのところで過ごす。このほうが、牛どうしでケンカにならないし、どのくらいエサを食べたか、元気かどうか、ってことを確かめやすいからなんだって。
あとツノが生えているとなかまを傷つけてしまうかもしれないから、生まれて2か月くらいのうちにツノも切る。
牛は、もともと草を食べる生き物なんだけど、しっかりした味の牛乳を出してもらうためや、高く売れるお肉にするために、草ではないエサをもらうことも多い。
・・・と、こんな感じなんだけど、どうかな?
ぎゅうぎゅうな場所に入れられたり、体の一部を切られてしまったりというのはちょっとかわいそうな気がするね。
でも、日本人はタマゴが大好きで、一人が1年で330コのタマゴを食べると言われている。
一億人くらいがほぼ毎日タマゴを食べるのに、日本にはタマゴを生むニワトリを育てる農家さんの数はどんどん減っている。
そうすると、ひとつの農家さんでたくさんのニワトリを飼わなくちゃいけないから、ニワトリを放し飼いにしたり、のびのび自由にさせていたりしたら、ケンカして傷つけあってしまうかもしれないし、あちこちにされるたくさんのフンの掃除だけででへとへとになってしまう。ブタでも牛でも同じようなことが言える。
だからといってたくさんの人で世話をすると、その人たちにお給料を払わないといけないぶん、タマゴやお肉の値段が上がってしまう。
だから今のやり方を続けるしかない・・・日本だけでなく、世界中で、昔はそういう考えだった。
アニマルウェルフェアとは
でも、1960年から1980年頃に、イギリスなどで「それじゃああまりに動物がかわいそうだ」「人間のつごうで何でもしていいわけじゃない」、という声があがってきた。
動物がきゅうくつな思いをせずに、つらい思いをしないでいられるようにしようという考えが「アニマルウェルフェア」なんだ。
「アニマル」は動物、「ウェルフェア」は、かんたんに言うと「幸せ」って意味。
「動物は生まれてから死ぬまで、つらい思いをしないで、その動物らしく過ごせるようにしよう」という考えで、1960年代くらいに、イギリスで「動物たちのために、5つの自由」の考えが生まれたんだ。
「5つの自由」とは
1.おなかを空かせない、のどがかわいたと感じさせないこと
- 元気でいられるために、その動物に合ったエサをあげること
- きれいな水を、飲みたいときに飲めるようにすること
2.気持ち悪いと感じさせないこと
- 体の向きを変えたり、立ったり横になったりが自由にできるようにすること
- 汚くないところで、しずかに休んだり、おちついて過ごせるようにすること
- 真夏の太陽の下とか、雨風が当たらないところで過ごせるようにすること
- 苦しいと思わせないこと
3.痛くしない、ケガや病気をほったらかしにしないこと
- キケンなものをなくすこと
- 元気かどうか、気を配ること
- ケガや病気の時は、お医者さんにみてもらうこと
4.その動物らしく生きられること
- 外で過ごしたいとか、太陽にあたりたいとか、赤ちゃんのお世話をしたいとか、それぞれの動物がしたいことをできるだけ自由にさせてあげること
5.コワイこと、恐ろしいこと、不安なことをさせない
- 動物だって、コワイとか、不安だとか、イヤだなって感じる心がある。そういう風に感じていないかに気を配って、コワそう、不安そう、イヤそうって思ったら、そうならないようにしてあげること
かわいがっているペットに対してなら、「これって、当たり前じゃないの?」って思う人のほうが多いけど、家畜に対しても、気をつけようということだね。
でも日本で「アニマルウェルフェア」の言葉を知っている人は、まだあんまり多くないみたい。
世界の「アニマルウェルフェア」
世界はどうかというと、かなり進んでいる。
ヨーロッパ連合では2012年から「ニワトリをせまいオリで飼ってはぜったいにいけない」という法律ができていて、アメリカやオーストラリアの一部でも禁止されている。スイスは、せまいオリはもちろん、せまくなくてもオリに入れてはいけないとされていたりする。
アニマルウェルフェアを守るために必要なお金が農家さんに配られる国もあるみたい。
アニマルウェルフェアが守られている商品がどれか調べて、きちんと守っている農家さんや商品には「これはアニマルウェルフェアが守られている」と認めるマークをつけるしくみもある。そうすれば、お客さんがお店で商品を買うときも、好きなほうを選べるからね。
日本の家畜の「アニマルウェルフェア」は、いちばん下のレベル⁉
じゃあ日本は、どのくらい「アニマルウェルフェア」が守られているんだろう。
世界動物保護協会という団体が、世界の50の国でどのくらい、家畜のアニマルウェルフェアが進んでいるかってことを調べている。
2020年に発表されたレポートを見てみると…。
Aが一番よいランクなんだけど、これにあたる国はまだない。
次によいのがBランクで、オーストリアやスウェーデン。
その次がCランクで、ニュージーランドやスイスやオランダ。
イギリスや韓国、ドイツなどがDランク。
アメリカやインドはEランク。
・・・なかなか日本が出て来ないって?
日本はなんと、いちばん下のGランクのようだ。
なんでそうなるんだろう?
- 日本では「アニマルウェルフェアを守るといいよ」と声かけはされているけれど、守らなくてはならないという法律がない。
- 農家さんたちが新しくアニマルウェルフェアに取り組もうとすると、新しく家畜の住む建物を作りかえたり、道具などを揃えたりしないといけない。働き方も変えないといけないから、いっぱいお金がかかる。(おまけに、ほかの国のようにアニマルウェルフェアを守ったところで国からお金をもらえるわけではない。)
- タマゴやお肉、牛乳を買うほとんどの人が、どんなふうに家畜が育てられているか、「アニマルウェルフェア」について知らない。だから「高いのと、安いのがあるなら、安いほうがいいんじゃない?」と考えてしまう人が多い。
うーん、みんなが力を合わせなくてはならないのはわかるけど、とってもむずかしそうだ。
「アニマルウェルフェア」を大事にしないとどうなるか
あまりにもむずかしい問題だから、「日本に法律がないなら、まぁこのままでもいいんじゃない?」とか「農家さんたちも毎日忙しいし、新しいチャレンジをするにもいっぱいお金がかかるのに、だれも助けてくれないんだから、しょうがないね」とか「タマゴやお肉や牛乳は安いままの方がいいなあ」とあきらめたくなるよね。
または「かわいがるペットと違って、家畜はどうせいつかは殺して食べちゃうんだから、幸せに育てたところで何になる?」と考えちゃうかもしれない。
そんな考えもあるのはわかる。
だけど、どうして「アニマルウェルフェア」を大事にしなきゃいけないかって、それはぼくたち・わたしたちにも関係がある。
というのも、せまいところで運動もさせないような不自然な育て方をすると、とうぜん家畜たちは病気になりやすくなる。
せっかく育てている家畜が病気にかかって死んじゃうとこまるので、病気になる前からたくさんの薬を使われることも多い。
そうするとどうなるかというと、病気を起こす菌たちが薬になれて強くなってきてしまって、「薬がきかない菌」が生まれてしまう。じつは、そんな菌は、もうすでに生まれている。
これをそのままにしていると、「薬がきかない病気」になった動物のタマゴやお肉が、いずれ人間の口に入るかもしれない。
そうすると、人間も「薬がきかない病気」になってしまうかもしれなくて、「30年後には、薬がきかない菌による病気のせいで、世界中で1千万人が亡くなってしまうという研究者もいるんだ(これは2022年2月までに新型コロナウイルスで死んでしまった人の数より多い)。・・・これはたいへんだ!
たくさんの動物を不自然な形で苦しめつづけると、その苦しみはいずれ人間にも広がってしまう。
だからということもあるし、そもそも「自分がもしその動物だったら、そんなことされたくない」ということは、しないほうがよいし、農家さんが「安いほうがいい」という声と「アニマルウェルフェアを守るべき」という声にはさまれてしまうのもきのどくだ。
何ができるか
ただ、自分で家畜を育てているわけでもない小学生に、何ができるだろう?って思うよね。たとえばこんなことができるかもしれない。
- 学校で、みんなで「アニマルウェルフェア」について調べて発表する
本を読んだり、映画を見るのもいいかもしれない。
調べたことをまとめて、発表してもいいね。
知ったこと、感じたことをおうちの人にも伝えて、何ができるか話し合ってみよう。
- 「アニマルウェルフェア」に気をつけている商品を選ぶ
食材宅配など、すでに「アニマルウェルフェア」に気をつけた商品をあつかっている会社もある。
今の日本では、そうでない商品よりちょっと値段が高いから、誕生日とか特別な日だけでも「アニマルウェルフェア」に気をつけている商品を選ぶ、とかでもいいかもしれないね。
- お肉のかわりに、大豆を食べる
たまにはお肉を食べない日を作るという手もある。
最近では、大豆をお肉のような味や舌ざわりにすることができるようになっているみたい。
スーパーなどではお肉コーナーの近くに「大豆ミート」コーナーがあることが多いので、チェックしてみよう。 (なかったら、「置いてほしい」とスーパーに言ってみてね)
また、モスバーガーやロッテリアなどのハンバーガーショップなどでも、お肉のかわりに大豆を使ったハンバーガーを売っていることがあるので、そういうお店に行く時には、「ソイ(大豆)」商品を注文するのもいいね。食べてみた感想を、おうちの人や友達に伝えるのもいい。
※ほかにも大豆ミートの商品を置いているお店があるよ。
- 牛乳のかわりに、豆乳を飲む
何回に一回かは、牛乳のかわりに大豆からできた「豆乳」を買うという方法もある。
豆乳はスーパーで買えることが多いよ。
もちろん、家畜だけじゃなくてペットの「アニマルウェルフェア」も大切。
ペットがほしいときは、まいごになったり捨てられてしまった保護猫・保護犬を飼ったり、ペットを飼うことができないときは、保護活動をしている団体を応援するということもできるよ。そしてペットを飼うときは、動物をたいせつにしている人からゆずってもらい、責任を持って動物が幸せでいられるよう、世話をしよう。
ほかにどんなことができるか、みんなも考えてみてね。
参考書籍・資料
(子ども向け)
- 書籍『しあわせの牛乳』(ポプラ社)
- 書籍『傷つけられる動物たち (みんなで生きる・21世紀)』(ポプラ社)
- 書籍&オンライン漫画『大豆ミートのひみつ』(学研)
- 映画『ブタのいた教室』 Prime Video
- 映画『ブタのいた教室』 DVD
(大人向け)