パソコンのキーボードには、たくさんのキーが並んでいます。しかしこのキー、よく見ると縦にきれいに並んでいるわけではなく、ちょっとずつ左右にずれています。

どうしてこのような並び方をしているのでしょう? 打ちやすいから? 作りやすいから? これは実は「タイプライター」というパソコンよりも前に使われていた道具の名残が残っているのです。
タイプライターとは
タイプライターとは、1700年頃から使われていた「清書するための道具」で、手書きだった文書をきれいに清書するために使われていました。

写真のような機械に紙を挟み、手前のキーボードから文字を打ち込みます。すると、それに繋がっている各文字の「スタンプ」が紙に押しつけられ、きれいな文字が印字されるというしくみ。これを使って、当時はさまざまな手紙などを作っていたんですね。
タイプライターのキーボードは、後でスタンプにつながっているので、キーを少しずつ横にずらさないと全部のキーをつなげることができません。つまり、タイプライターのキーがずれているのは「スタンプをつなげるため」なのです。
タイプライターを使う仕事、タイピスト
タイプライターは、普通の家庭や会社で誰でも使えるような道具ではなく、専門的な訓練を積んだ「タイピスト」と呼ばれる職業の人たちが使っていました。彼らは、キーの場所などを覚えていて非常に早くキーを打ち込むことができるため、手書きの文書や誰かが話している言葉をキーボードから打ち込んで、清書をするという仕事をしていました。
タイピストに使ってもらうためのパソコン
その後タイプライターは、電気で動作するようになり、さらにはその後のパソコンまで進化をする事になります。電気で動くようになれば、キーボードをスタンプにつなげる必要もないため、自由な形に変えることができました。
しかし、パソコンを作ったところで、やはりしばらくはタイピストの人たちでなければ、大量に並んだキーを使うことができません。そこでパソコンを作る人たちは、タイピストの人たちがスムーズに使えるように「あえて」タイプライターと同じ形でキーボードを作りました。
こうして、パソコンのキーボードはタイプライターのキーボードの形をそのまま使うことになり、その後登場するパソコンもこれを変える事なく、300年以上たった今でも同じ形で使われています。
このキーボードの「ずれ」には、実に300年もの歴史があるんですね。